介護は、一人だけでは、
一家族だけではむずかしい

エンドレスに続くようにも
思えた介護
人間50歳ともなると、二人に一人は何らかの認知症の兆候が現れはじめるという。
介護は多くの人にとって避けて通れないものになっている。
テレビやラジオのキャスターとして30年以上のキャリアがある生島ヒロシさんは、義母(奥様のお母様)の介護体験を書籍(『おばあちゃま、壊れちゃたの?』(三笠書房))にも著し、介護については一家言を持つ。
義母は半月板損傷から歩けなくなり、それが元で徐々に認知症になっていく。義母が78歳の頃。1枚50万円もするような高級毛皮を勝手に何枚も注文したり、頻繁に救急車を呼んだりと介護者を翻弄していく。
約8年間、奥様と奥様のお姉さんである義姉、そしてヘルパーも頼んでの壮絶ともいえる介護の日々が続いた。妻と義姉の姉妹にかかる大きな負担。この世にこんな仲のいい姉妹はいないのではないかとも思われた姉妹にもちょっとした感情のもつれが生じ、喧嘩になることもあったという。
出口の見えない、エンドレスに続くようにも思えた介護によって、生島家は崩壊寸前の危機にも直面していった。
「今となればいい思い出ですが、当時はそれはそれは大変でした。幸い、僕らは素晴らしいヘルパーさんにめぐり合うことができ、義母は3年ほど前に大往生しましたが、義母が逝去した時には、親戚一同からすばらしい介護だったとお褒めの言葉をいただきました。ヘルパーさんには全員で大きな拍手を贈ることもできました」と生島さんは振り返る。
「僕は介護の様子を見ていましたから、妻には『100点満点の120点の介護だったよ』と言いました。しかし、妻は義母が逝去した時にはやはり泣き崩れてしまいました。いろいろな想いが込み上げたのでしょう。それは、母と娘の間でしか分からないことかもしれません」。

健康への関心の高さから、ヘルスケアアドバイザーの資格を取得。
他にもファイナンシャルプランナー、福祉住環境コーディネーターなど数々の資格を持つ。
生島さんは、講演会などで介護経験を話す機会がある。その時に必ず言うことがある。「完璧な介護なんて、なかなかできるものではありませんよ」。そういう話をすると、講演後に『そう言っていただいてホッとしました』と言って声をかけてくる聴衆の方も多い。
介護する側が楽しい気持ちになると、
要介護者も楽しげに
生島さんに、介護に携わっている方々にいまどんな言葉を贈りたいかを、ざっくばらんに語ってもらった。
「介護は、身体にとっても心にとっても重労働です。特に、最初の3年が大事ですね。まずは3年。3年経つと慣れてくることも多くなります。ですから、決 してあわてないこと。それと、義母を介護してみてはっきりと分かったのは、介護は、一人だけでは、一家族だけではむずかしいということですね」。
最初の3年の間にできることはいくらでもある。同じような環境にある人たちとの会話、そして、情報交換。そういったことで解決できることは少なくない。一人や一家族だけではなく、チームとして携わっていくような意識づくりをしてほしい、と生島さんは力説する。
「完璧な介護なんてありえませんから、思い切って『70%ぐらいでOK!』と割り切ること。そして、自分にも楽しみを与えてあげる。四六時中、介護のことばかりを考えているのでは息が詰まる。趣味でもなんでもリラックスできる時間を大切にして、その時は思いっきり楽しんでほしい。介護する側が楽しい気持ちになると、要介護者も楽しげになるものですよ」。
ご夫婦であれば、ご主人は奥さんの愚痴ぐらいは聞いてやる。たまには、“ご苦労様”という意味で外食にでも誘ってみる。夫婦水入らずでデートもいいかもしれない。生島さんは、夜ビールを飲みながら義母のことを話す、奥様の愚痴の聞き役になっていた。
もちろん、いろいろな介護サービスを利用するのも選択肢のひとつと生島さんは言う。
「選択肢は広がっていますから、利用可能なシステムは遠慮せずに使ってみること。介護施設などを検討する際のポイントは、経営者がしっかりしているこ と、経営母体がしっかりしていることだと思います。それから、できれば実際にサービスを体験すべきです。施設であれば、1泊だけではなく3泊ぐらいはしてみたい。そうすることで、施設を利用されている方々の生の声が聞くこともできます」。

介護に携わると、どうしても深刻にものごとを考えがちになる。生島さんは、「笑いを忘れないように」とも言う。
「なかなか余裕も無いなかで“笑い”を見つけるというのも難しいかもしれません。でも、笑いの要素がないと、それこそ“介護の穴”から出てこれなくなってしまいます。笑いを見つけることで、その穴から意外に楽に脱出できるものですよ」
生島家でのちょっとした笑い話を一つご披露しよう。
大のコーヒー好きの奥様。その日もやっとひと息つける時間にコーヒーを楽しまれていた。ちょうどその時、そばのトイレを生島さんがご使用中!生島さんがトイレから出るなり、奥様が言った。
「コーヒーの香りを楽しんでだけど、妙な香りがしてきたわね。これが本当の“ブレンド”コーヒー!
奥様のそんなジョークに、生島さん自身も日々、救われているという。もちろん、それも生島さんのサポートがあるからこそなのだろう。
“親孝行、したいときに親はなし”とか“墓に布団は着せられぬ”といったことわざがあるが、最近では、“親孝行、したくないのに親はいる”というのもあるらしい……。そのくらいの毒は笑って済ます余裕があってもいいのかもしれない。
認知症にも効果のある
簡単体操
生島さんは毎週月曜日から金曜日早朝5時半からのラジオの番組(TBSラジオ系『生島ヒロシのおはよう一直線』)において、延べにして約5、000人の 様々な分野の医療のプロにインタビューしてきている。“僕は健康マニア”と自称する生島さんだけに、健康をテーマにした講演を依頼されることも多い。

「義母の介護を通して、人の老い方というものを考えるようにもなりました。私の父は53歳で他界しまして、私は現在、58歳。父より長生きしているわけ ですが、元々は胃弱体質で子供の頃は病弱でした。そんな僕でもここまで頑張ってこれたということは、自分なりに健康に留意してきたことの証しかなと」。
仕事柄、生島さんが神経を使うのは“睡眠”。生活がどうしても不規則になりがちだし、7~8時間のまとまった睡眠をとるのはまず無理。夜の睡眠は3~4時間がせいぜいなので、空いた時間はできるだけ仮眠をとるようにしている。
生島さんが愛用しているのが鼻呼吸を促すマウステープ。それを睡眠時に口に貼っておく。睡眠時にはどうしても口を開けてしまうことが多くなるが、口を開けたまま寝ると体内に雑菌が入る。口を閉じて寝ることで、雑菌を防ぎ、しっかりと鼻呼吸をすることで身体自体の免疫力を高めることもできる。
「鼻呼吸をすることで睡眠の質が驚くほど良くなり、今はお陰さまでいつも爆睡!」(笑)
次は、『一人じゃんけん』。自分の両手でじゃんけんをし、最初は必ず右手が勝つようにする。右手がグーなら左はチョキ、パーならグーという具合。それを 繰り返し、今度はそれを手を逆にして、今度は左手が勝つようにする。実際にやってみると、かなりの頭の体操になりそうだ。
さらに、『指回し体操』。両手の指を合わせてボールのように球状にし、人差し指同士、中指同士と順番にクルクル回していく。これも実際にやってみると意外にやっかいだ。特に薬指はスムーズにクルクル回せない。しかし、慣れてくるとできるようになる。
「認知症には指先の運動がいいと言います。一人ジャンケンも指回し体操も認知症の予防にも効果的です。簡単に誰にでもできる体操ですから、ぜひ皆さん試してみてください!」
健康に留意し、笑いも忘れず、そしてポジティブに介護の日々を過ごしてくださいと、生島さんは笑顔で語ってくれた。

生島 ヒロシ(いくしま ひろし)
profile
1950年生まれ 宮城県気仙沼市出身
1975年カリフォルニア州立大学ロングビーチ校ジャーナリズム科卒業。翌年TBSに入社し、ラジオ番組を振り出しにアナウンサーとして活躍。89年独
立。キャスターとして活動を続けながら、金融や健康、福祉への深い造詣を活かし、講演・セミナー・出版活動などを精力的に行っている。
<著 書>
「人に好かれる話し方 決定版」 (マガジンハウス)
「資格力」(東京書籍)など







